今回レビューするのは、DUNU x Gizaudio DaVinci(以下「DaVinci」)。ミドル〜ハイエンド帯域を狙ったハイブリッドIEMとして、発売以降多くのオーディオファンから注目を集めてきたモデルである。結論から言えば、「万能型リスニングIEMのひとつの理想形にかなり近い」と感じる一本だ。本稿では、その構成、音のキャラクター、長所と短所、そしてどのようなリスナーに向いているかを検証する。

製品概要とスペック
DaVinciは、ドライバ構成において「2 DD(ダイナミックドライバー)+4 BA(バランスド・アーマチュア)」というハイブリッド設計を採用している。具体的には、サブバス用の10 mm、ベース〜中低域用の8 mmのダイナミックドライバーに加え、中域から高域、超高域にかけて4基のBAを配置。これらを5ウェイの音導管+クロスオーバーで制御するという、かなり凝ったマルチドライバーユニットとなっている。
筐体は、3Dプリントによる樹脂シェルに、ひとつひとつ模様の異なるスタビライズド・ウッド製フェイスプレートを組み合わせたハイブリッド構造。見た目や質感にもこだわりが伺え、所有欲を満たす仕様だ。
スペックとしては、インピーダンス35Ω、感度およそ109–112 dB、再生周波数帯域は5 Hz–40 kHzと、スマホ直挿しでも比較的駆動しやすく、それでいて低域から高域まで広帯域の再生能力を備えている。
付属品も充実しており、複数のイヤーピース(標準/S&S/Candyなど)、モジュラー対応ケーブル(3.5mm/4.4mm等プラグ交換可能)、クリーニングツール、大型のハードケースなどが同梱されており、パッケージングとしても非常に満足度が高い。
以上から、単なる“量産型”イヤホンではなく、「音質」「質感」「所有感」「実用性」をバランスよく高めた、いわば“よくばり仕様のイヤホン”として設計されていることが分かる。

サウンドの特徴 ― 音質インプレッション
・低域〜中低域
まず、DaVinciの最も大きな特徴といえるのが「豊かで重みのある低域」だ。サブバスとベース用の2基のDDによる出力は、単に量だけを稼ぐ“ドンシャリ型”ではなく、「量感と質感を両立させた重低音」を描き出す。低域はしっかり体に届き、聴感上のパワー感と体性感(サブベースのズシリとした余韻)を伴う。
ただし、暴力的な重低音というわけではない。単に低域を強調して音を太らせるのではなく、楽曲が持つ低域のポテンシャルをしっかりと拾い、「楽曲が本来持つ重厚さ」を丁寧に表現するような印象だ。結果として、ポップス・ロック・アニソンなど、ビート感や重低音を重視するジャンルとの相性が非常に良い。
・中域〜ボーカル
中域帯域は、低域に埋もれず、かといって過度に前に出すわけでもない「ニュートラル寄りのバランス」。ボーカルは存在感を持ちつつも、変に強調されすぎず、自然な印象を残す。それでいて、中低域からの厚みがある低域と組み合わさることで、ボーカルに安定感と伸びが感じられるのが魅力。特に、女性ボーカルでは温かみを伴った豊かな声質、男性ボーカルでは力強さと適度な太さのある声が出やすいようだ。
中域は“無難”とも言えるバランスだが、それこそがDaVinciの狙いであるように思う。派手さや尖りを抑えて実用性と安定感を重視、ジャンル問わず使える“万能性”を保持している。
・高域・音の抜け/全体バランス
高域については、BAらしい解像感と明瞭さがあるものの、伸びや抜けの良さや煌びやかさを重視する人にとっては「やや控えめ」と感じられる可能性がある。高域の伸びや倍音の煌めきは抑えられており、鋭さや刺さり感も少ないため、“長時間リスニングでも疲れにくい”チューニングだと言える。
また、全体の音の印象は「U字〜弱ドンシャリに近いニュートラルバランス」。低域にしっかり重みを持たせつつ、中高域もその恩恵で埋もれず、かつ癖が少ない。これにより、「どんなジャンルでもそこそこ良く鳴る」「ジャンルや気分を選ばず使える」という“万能性”を実現している。
長所と短所
長所
- 重厚で質の高い低域再現:サブベースから中低域まで、しっかりとした厚みと量感を持つ低域が得られる。
- バランスの良い全帯域構成:低域〜高域まで偏りすぎず、ボーカル、中音域も自然で使いやすい。
- リスニング用途での汎用性:ポップス、ロック、アニソン、EDMなど、ジャンルを問わず幅広く対応可能。
- 装着感・所有感の良さ:軽量な筐体、ウッドフェイスの高級感、付属品の充実と質感の高さ。
- 長時間リスニングに向く:高域の刺激が抑えられており、耳への負担が少なく、疲れにくい。
短所・注意点
- 高域の伸びや煌びやかさは控えめ:伸びや「刺さり」を求める人、クラシックやジャズなどで細かい表現を楽しみたい人には物足りなさがあるかもしれない。
- 音場の広さや超高解像度志向には不向き:音場はそこそこだが、極端に広いホール感や超高解像度表現でのリアルさは期待しすぎないほうがよい。
- “クセのない”分、個性に欠けるとも感じられる:独特のキャラクターや“色”を求める人には「無難すぎる」と映る可能性もある。
どんな人に向いているか
DaVinciは、以下のようなリスナーに特に向いているイヤホンだと考える。
- ポップス、ロック、アニソン、EDMなど、重低音やビートのある楽曲をよく聴く人
- ボーカル中心、歌もの中心で音楽を楽しみたい人(特に女性ボーカルの曲)
- 長時間のリスニングや通勤・通学、作業用BGM用に疲れにくいイヤホンを探している人
- 音質だけでなく「見た目・所有感・付属品の充実」を重視する人
- 初心者〜中級者で、まず「一本でなんでもそこそこ楽しめる万能イヤホン」が欲しい人
逆に、「超高解像度」「広い音場」「クラシック/ジャズの繊細な楽器描写」「刺さるような高域」「定位の精密さ」を求めるいわゆる“オーディオマニア志向”の人には、やや物足りなさを感じる可能性がある。
結論 — DaVinciは「万能的リスニングIEMの完成形に近い」
総じて、DaVinciは「地味すぎず、派手すぎず」「尖りすぎず、丸すぎず」「音のバランス・質感・使いやすさのバランス」が非常に高い完成度でまとまったイヤホンだ。特に「これからIEMをひとつ買うなら」という意味では、非常に優秀な選択肢になると思う。
もちろん、「より尖った個性」や「超高解像度」を求めると物足りなさはある。しかし、日常使いやリスニング用途、ジャンルを問わず楽しみたいという用途においては、(高すぎず安すぎずの)価格帯を考慮しても「よくできた妥協のない一本」である。
もし私が今「オールラウンドに使えるイヤホン」を新たに探すなら、間違いなく選択肢に入るだろう。もしよければ、私が考える「DaVinci と似た傾向で、もう少し高解像度/音場重視」なイヤホン数本も後日紹介しよう。
